奴隷商人ライブネクスト
登場人物一覧
| 藤沢聖美 | ごく普通のコスプレ少女。愛らしい顔と少し肉付きの良い肢体を持つ。加藤真実という恋人がいる。 |
| 加藤真実 | 聖美の恋人。無駄のない体つきをした青年。 |
「ん〜……」 人混みの中、立ちつくしている少女は嘆息した。 陽が当たると茶色っぽい色になる、綺麗な黒髪は後ろでリボンのついた髪留めで止められており、お嬢様ヘアと呼ばれる髪型をしている。前髪は長すぎず、短すぎず、文字通り少し前に流行った『お嬢様』然とした髪型になっている。 それが嫌みにならない清楚さを雰囲気として持っている。黒い瞳はブラックオニキスの様に、生命と意思力の輝きを放っている。僅かに垂れた目元が優しげな印象を与える。 眼鏡をかけているが、それが顔の均整を損なうこともない。むしろその下の瞳がより優しげな印象を与える手助けをしているようにも見える。 顔の輪郭はやや丸みを帯びているが、それも『太った』というよりは鋭角的な印象を持たない、優しさを感じさせる。 体型は、申し分なかった。衣服の上からは解りかねるがややこぶりな形の良い胸や、均整の取れたラインをもつ下半身。いずれも、世の女性にとっては羨むに値する。 総じて言えば、世界で最高の『美女』ではなかったが、清楚な雰囲気と優しげな印象から誰からみても好感の持てる、『可愛い女』『綺麗な女』『佳い女』である事には間違いなかった。 彼女の名は、藤沢聖美(ふじさわきよみ)。 「……遅いなぁ……」 聖美がため息と共に吐き出した愚痴は誰の耳に届くこともなく、目の前の喧噪にかき消される。 加藤真実(かとうまさと)と待ち合わせした時間は午前9時半の筈。なのに、目の前にある大きな時計はもうすぐ10時になろうとしている。 こんな時、普通は『待ったけど来なかった』としてさっさと帰ってしまっても良いのだが、いかんせんそんな事をした日には数日間拗ねられる事は目に見えている。 それくらいならもう少々……そう、あと1時間ぐらいなら待っても良いだろう。 ……それに、彼は車でここに来るのだ。渋滞やその他どんな原因であっても、一時間程度の誤差が出来るのは仕方ない。……などというのも、一時間以上待たされている彼女にしてみれば慰めにすらならないが。 ここは年に二回行われる、同人誌即売会『コミックランチャー』の会場の一角である。会場は東館本館、中央別館、西館別館の三つに分かれており、それぞれが人の込み合う通路で行き来できるようになっている。今彼女がいるのは東館の入り口付近だ。 入り口のすぐ近くの、非常シャッターの前に佇んで聖美は待ち人の姿を求めて視線を泳がせる。 待ち合わせている相手は聖美の恋人、加藤真実であるが、その真実の姿はいっこうに現れる様子もない。 聖美は8時半にはここに到着していた訳で、既に一時間以上も立ちつくしている。 コスプレ……コスチュームプレイ……をしながら真実の販売ブースで売り子をするつもりだった聖美は、真っ白な巫女服に緋色の袴をはいた格好をしている。 この日のために様々な趣向を凝らしたコスチュームを作り上げ、着込んで会場を歩いたり専用の広場で写真を撮ったりする事を、コスチュームプレイ、略してコスプレと呼ぶ。 或いは彼女のように、本を売る売り子がコスプレをする事もある。 巫女さんのコスプレ自体は決して珍しくはないのだが、可愛らしい顔と均整の取れた肢体を持つ聖美は、既に一時間以上一人で立っている事もあって既に数人から注目を受けている。 注目を浴びることに慣れていない事もあり、眼鏡を僅かに下向けて視線を床面に固定したまま、表情を悟られないようにして、聖美はただ真実を待ち続ける。 (……う〜、真実〜……幾らなんでも酷いぞ〜……) 大体、もう12月も終わりに近いこの季節では寒さも十分敵になりうる。巫女服の上下は比較的厚い生地で出来ているとはいえ、その間から入ってくる風が十分にすーすーする。それに、このコスプレ用の巫女服は本来のものより裾が短い。 ……そして……何より、今の彼女は下着を何も着けていないのだ。 ………事は1時間前、コスプレ専用の女子更衣室の中でのことだった。 いつもの様に着替えに入った彼女は、既に一杯の人でにぎわう更衣室の入り口でどこか空いた場所を求めてうろうろしていた。 「あ、ここ、良いですか?」 「……友人が来るんで」 「あ、すいません……ここ……」 「あ?」 女の子と言うのは自分より可愛い子に対して意地悪になるものだ(?)から、可愛らしい表情を作ってみたところで帰ってくる反応は冷たい。 半ば諦めかけていたとき、不意に一角を占領しているグループの一人がたたた、と走ってくると、聖美の背中をつんつん、と突っついた。 「は、はい?」 「ねぇ、あっちの方で少しだけ場所空いてるから、いらっしゃったらどうですか?」 昔から女の子のグループに入ると苛められる事の多かった聖美には、あんまり気の進む話ではなかった。……が、背に腹は代えられない。 礼を言うと、そのまま走っていった小柄な少女の後についてグループの中に入っていった聖美は、彼女たちが某有名なゲームの集団コスプレをしているグループだと見て取った。 大手会社のファンタジーロールプレイングゲームのコスプレである。 胸がやたら強調された白いTシャツに黒いレザーミニのタイトスカートの女の人やら、鎧と言うにはあまりにも露出の高い格好をした女の人とか。 礼を述べた後、その一角に置かれた机と着替えを入れる籠の中に持ってきた巫女服を入れる。 ……と、そのうちの一人が声をかけてきた。 「わ、巫女さんだぁ…いいなぁ、可愛いですね〜」 「そ、そうですか? ありがとうございます〜」 「へぇ……そっかぁ、巫女さんするんですね? ゲームキャラで?」 「うぅん、ただの巫女さん……」 少し顔を赤くしてぽりぽりと鼻の頭を掻く聖美。その少女は背も高く、胸を強調された服のよく似合う、グラマラスな女性である。 どちらかと言えば『可愛い』タイプの聖美に比べると、その女性は『格好良い』イメージのある女性だった。 彼女がどこからともなく名刺ケースを取り出すと、聖美の方にそれを差し出す。 『ライブネクスト 高原和江』 ライブネクストとは恐らくサークル名か何かだろう。聖美はあわてて鞄の中から同じく名刺ケースを取り出すと、暫く悩んだ末、ハンドル…つまり、ペンネームのような物を書いた方ではなく、本名を書いた名刺を差し出した。 そこにはただ、『秋月聖美』という名前と、自分のe-mailアドレスが書かれており、とあるゲームから抜き出した画面がプリントされている。 「あ、聖美さんっていうんだ。私は和江って呼んでくれて良いですよ〜」 「は、はい…えっと、和江さんですね?」 「うん、聖美ちゃんって呼んで良い?」 「は、はい……」 距離の詰め方が早い。聖美はちょっと面食らいながらも、割と気さくな彼女の態度には好感を持つことが出来た。 「あ、早く着替えなよ。一緒に西館屋上に行こうよ?」 西館屋上とは、コスプレをした男女が集まる専用の広場である。記念写真の撮影や雑誌の取材などはすべてそこでしか行ってはならない事になっている。 「あ、でも、私、連れが居るんです……。このコスも売り子する時ので……」 「そうなんだ。じゃあ、出るところまで……。私も巫女さんのってどんなのか興味あるし〜」 「あ、は、はい……」 コートを脱ぎ、上着をとる。じっと見られているのが妙に気になるが、かといってあんまり意識して相手を追い払うと気分を害するかも知れない。 聖美は昔から遠慮がちな娘だったが、今もやはりそのグループの殆どが既に着替え終わって彼女の姿に注目しているのを感じると、妙に手が鈍ってしまう。 小学生の頃、給食を食べ終わるのが一人遅れたときのような、奇妙な焦燥感を感じる。 (う〜……恥ずかしいよぉ〜) 内心で泣き言を言いながらも、意を決して下着姿にまで一気に服を脱ぐと、そのまま巫女服に手を伸ばす。 「ちょっとぉ!」 グループの中の一人が不意に聖美に声をかける。 「え?」 「巫女服着るのに下着着けてどうするのよ! 和服着るときはそんなの着けちゃダメ!」 「そうね〜。同じコスプレイヤーとしてそれは看過できないわね〜」 「そ、そんな……」 いつの間にかグループの全員が彼女の周りに集まり、少し熱気を帯びた目で彼女の身体を注視している。 怯えて思わず服を胸の前に引き寄せると、不意に後ろから和江が手を伸ばした。 「何を恥ずかしがってるの? こんなに可愛い顔して、こんなに良い身体して……」 「あ、あのッ………」 明らかにヤバめの雰囲気に聖美の声が震える。だが、和江はお構いなしに冷たい手を聖美の胸元に伸ばすと、ブラジャーを引き上げる。 ぷるん、と形の良い胸が外気に晒され、周囲の少女達の間からほぅ、と称賛と僅かに嫉妬の混じった声が聞こえる。 背後でホックを外されると、ブラジャーがぱさり、と床面に落ちる。 それを誰かが拾い上げる。その動きと共に今度は聖美のストッキングに手をかけられる。 さすがに呆然としていた聖美も、その動きには拒否反応を示した。 「あ、ダメですっ!」 「何言ってるの。男は何処にも居ないわよ。なんで恥ずかしがるの?」 「なんでって………」 幾ら同性の前でも、晒したくない部分というのはある。聖美が必死で抵抗するものの、異常なまでに熟練した動きで聖美のストッキングとパンティをするするとずらす。 白い綺麗な脚が外気に晒され、聖美のもっとも大切な場所、女の子の花びらからパンティが離れていく感触がする。 両足を閉じたものの、時既に遅く聖美はあっという間に全裸にされてしまった。 泣きそうになりながら聖美は、恐らく罠にはまったのだと悟った。彼女は昔からその可愛らしい顔と綺麗な身体故に何度も同性や異性の虐めを受けてきたのだから、その雰囲気はすぐにわかった。 目の前で自分のお気に入りの下着を取り上げられ、ぱさり、と巫女服が彼女の前に置かれる。 「ほら、早く着替えなさい」 「……か、返して下さい〜」 「勿論、返してあげるわ。でも、和服を着るのにこんな下着着けられては、私達コスプレイヤーの名折れなのよ」 「そんなの勝手です……」 「ダメよ。あなたも今日からライブネクストのメンバーになったのだから」 「なってません〜」 「なったの。今、私達の前で生まれたままの姿になった瞬間からね。言っとくけど、強制だからね」 「そそ、私達も最初は驚いたけど〜、別に大丈夫。怖いのは最初だけだし…」 「克美!」 和江に睨まれて、克美と呼ばれた少女が慌てて口を閉ざす。 聖美は怯えながらも、目の前の巫女服を素肌の上から着るしかなかった。震えは、恐らく寒さもあるだろうが何より目の前にいる明らかに異質な同性に対する恐怖感から来るものだと解っていた。 「…………」 「あら、やっぱり似合うわ。可愛いじゃない、ねぇ?」 和江が聖美の衣服に触れ、グループの少女達はうんうんと頷く。 怯えながらも、それ以上のことをしてこない和江の姿をみながら、聖美はゆっくりと後じさる。一度更衣室から出て、すぐにまた取り戻しに来ればいい。もう一度下着を着けて出直せばいい……。 「じゃ、これは終わるまで預かるわ」 ……だが、大方の予想通り和江は聖美の下着と着替えをまとめると、大きな籠の中に入れてしまう。 「大丈夫! 私達が責任を持って管理するわ。なまじっかなロッカーに入れるより絶対安全だから!」 そのまま腕を捕まれると、聖美はずるずると出口の方に引きずられて行く。 ……そして、気がつけば今の状態。 聖美が他人の視線を過剰に感じるのも、無理なからぬ事なのだ。 通り過ぎる一人一人が、彼女の肢体に秘められた秘密を見抜こうと注視している……そんな錯覚さえ憶えることもあった。 (……真実〜……早く来てよ〜) 何度となく胸の中で繰り返した言葉を、再びため息という形で体外に出した聖美は、不意に目の前の床面に影が落ちるのを見た。 目を上げると、そこには見たこともない体躯の大きな男が二人、聖美を見下ろしていた。 彼女の待つ真実の身体は小さくはないが、目の前の男達のように巨大、といいたくなるほどのものではない。 真実の背は175cm。高いとも低いとも言えない標準的な体つきだ。 しなやかな筋肉を、ゆったりした態度で隠してはいるが、運動性はかなり高く、無駄のない動きをする。 性格は正反対で、のんびりゆったりを信条としているかのようだ。 目の前にいる男達は真実とは違った。 背が高く、筋肉質で汗くさい印象。首からカメラをぶら下げているのは、恐らくコスプレ写真を取りに来たマニアの一人だろうと思われる。 男達はニヤニヤした、どこかこびるような笑顔で彼女の前に立つ。聖美は声をかけられる迄は無視しようと試みたが、男の一人が明らかに聖美に向かって声を発した。 「あの、巫女さんのコスプレの写真撮らせて欲しいんですが」 「ここ、撮影禁止ですよ? コスプレ広場に行けば……」 「……じゃあ、一緒に来て下さいませんか? すぐに済みますから……」 聖美は少し考え込んだ。もし広場に移動してしまったら、その間に真実がここに来て自分が居ないことに焦るか心配するかするだろう。そして、その後はいじいじと拗ねてしまう。 何より、目の前の見知らぬ人たちに一人で着いていくのは怖かった。 真実が来てからならともかく、今すぐにというのなら断るしかあるまい。 断ろう……そう思って口を開きかけた時、不意に聖美の後ろのシャッターについている、小さな勝手口の扉が押し開かれた。 背中に強い衝撃。よろめいた彼女の身体が、目の前の二人に押しつけられ、一瞬彼女は狼狽する。 「あ……すいませ……」 謝りかけた彼女の言葉が一瞬凍り付く。 背後の扉は、明らかに意図を持って彼女を突き飛ばしたのだ。 それが証拠に、男は倒れ込んできた彼女の背中に手を回すと、強い力で締め付けてきた。 驚くほどの膂力だった。 肺の中の空気をすべて吐き出されるかのような苦痛。目の前が暗くなり、両手両脚がしびれたように動きを止める。 二人の男に抱えられるようにして、聖美はいつの間にか待ち合わせ場所から連れ出されてしまった。 「……は、……は………ぁ……」 放して、と言おうとしたのだが、呼吸がままならない。息を吸おうとしても、まるで見えない枷が彼女の肺を縛っているかのように、吸い上げることも出来ないのだ。 「な、何するんですか……」」 「…………」 「お願いです、放して……」 かろうじて出した声も、男達には届かないのだろうか。まるで聖美の声など聞こえないようにそのまま彼女をどんどん運んでいく。 『コスプレ広場』と呼ばれる場所は、会場の西側別館の屋上にある。 あっという間に待ち合わせ場所であった東側本館から連れ出され、風の冷たい外を通って西館屋上への階段を上りはじめる。 恐怖のあまり、聖美はすすり泣きはじめていた。 「……なんで……イヤって言ってるのに……」 「………そういう訳にはいかないんだよ」 さっきまでのこびるような口調とはまるで打って変わったように威圧的な声を出す男。 気がつけば、彼女は『コスプレ広場』の一角……比較的多くの人から死角になるような位置に連れ込まれた。 膝ががくがくする。まるで、今彼女の秘密をすべて暴いたかの様に、男達は聖美を壁に押しつけた。 「……へへっ……可愛いな」 「………っ」 聖美は今や広場の片隅に包囲されていた。 4人の男達が、もはや無遠慮な視線を彼女の全身に投げかけてくる。 ふと、男の一人が近寄ると、聖美の首筋に指を這わせる。 首をすくめると、眼鏡が僅かにずれる。 怯えて震える聖美の手を取ると、男達は自分たちの股間にその手を擦り付ける。 禍々しいまでに、男達の股間は大きく硬く、そして太かった。 その形を憶えさせるかのように、男達は執拗に聖美の可憐な手を股間にこすりつけさせる。 気持ち悪かった。……だが、聖美は声を出すことも出来ず、ただひっくひっくとしゃくり上げるだけだった。 「おい、そろそろ撮るぞ」 リーダー格らしき、体格の良い男が低くつぶやくと、残り全員が頷き、もっと体格の良い大男が彼女の耳にささやきかける。 「ああ、解った。じゃあ、お嬢さん、立って貰えるかな? 写真撮ったら返してあげるから」 「………ホントですね?」 「あぁ、一応そのつもりだよ」 一応、という所に何かひっかかりを感じるが、とりあえず聖美は少しだけ気を楽にする。コスプレ写真を撮られるのは今に始まったことではない……まだ甘い彼女は、そう思ってしまったのだ。 |