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奴隷商人ライブネクスト

落日の聖女


登場人物一覧

藤沢聖美 ごく普通のコスプレ少女。愛らしい顔と少し肉付きの良い肢体を持つ。加藤真実という恋人がいる。
加藤真実 聖美の恋人。無駄のない体つきをした青年。
須藤 謎の男達のリーダー格。体格がよく、低い声で相手を威圧する。
日吉 ゴリラ並の体格を持つ。見た目通り力が強く、身体も頑丈なボディーガード。
高江洲 もと医師を目指していた男。女性の身体の構造を知り尽くし、内部から奴隷化する。
飯島 謎の男。高い知性を持つ参謀役。女言葉でしゃべる男。
みなみ 偶然から、真実と知り合った少女。肩の辺りに切りそろえた髪型、背の低い少女。

第十一話  脱出活劇

 聖美が部屋にこもって一時間が過ぎた。須藤の使いである男達がドアを叩くのを止めて既に30分が過ぎ、聖美は時計の針が18時を回ったのを知った。
 恐らく、須藤が幹部を引きつれてくる。そして、そうなれば彼女はこの部屋の扉や窓から入ってきたあの連中を相手にしなくてはならない。
 勝ち目などない。それでも、人として、彼らに一矢報いたかった。何もかも自分の思い通りになると思っている傲慢な連中を見返してやりたかった。
 聖美は手元のカプセルを見る。カプセルにはネコイラズが入っている。カプセルが溶けるのは4時間後。今飲んでおけば、例え飯島に行動を封印されても確実に死ねる筈だ。
 死ぬのはイヤだった。だが、あんな連中の下で一生をすごすのはもっとイヤだった。
 想像を絶する苦しみと乾き、疼いてくる下半身は今でも変わりはない。だが、意思力の全てを振り絞った聖美が自我を取り戻し、麻薬の禁断症状の第一段階を気力だけで乗り切ることが出来たのは彼らにとって大きな誤算だったはずだ。

「……っ……」

 下半身の疼きが酷くなってきた。ここでオナニーをはじめればどれほど気持ちいいだろう。だが……と聖美は唇を噛む。そこは既に、彼女の歯によって傷つけられ、ずたずたになっている。
 だが、彼女は人間だ。本能だけで生きる動物ではない。
 その想いと……そして、今、間違いなくここを目指してくれている彼女の騎士……加藤真実が、かならず来てくれる事を信じて、彼女は決して手を胸や股間に持っていくことを禁じていた。

 がちゃ……がちゃ。

 不意に玄関で音がする。鍵が開かれる音がする。聖美はカプセルを見つめる。今しかない。飲むなら、今しかない………。
 だが、そんな気持ちはすぐに吹き飛んだ。玄関から、懐かしい、心強い……力のある声が聞こえていた。

「……聖美……俺だ、真実だ……開けてくれる……よな?」

 聖美はカプセルを台所の生ごみ入れに放り投げ、大急ぎでドアに取り付き、ドアチェーンを外した。
 真実の、はにかんだような穏やかな表情がそのドアの向こう側にある。
 そう期待して聖美は扉を押し開けた。
 今になって聖美は、自分にかけられた暗示の強さを思い知った。ドアを思いっきり引き開けたその姿は、日吉の姿そのものだったのだから。

「………あ………あ………」
「…聖美、なんで言うことを聞かなかった。須藤さんの使いが来たらちゃんと家に上げて話を聞けと言って置いた筈だぞ」
「………知らないわ…」

 震える声で答える聖美。日吉の顔が称賛に輝く。

「つくづく凄い女だよ、お前は。これだけ虐められながら自分を保って居るんだから……な。だが、それじゃ奴隷として困るんだよ。自分をさっさと捨ててしまえ。そして、本当に奴隷として生きることに喜びを感じろ…」

 ……勝手なことを、と聖美は思う。が、唇からはひゅーひゅーと息が漏れるだけだった。日吉は、体育会系の男だが頭が悪いわけではない。そして、その圧倒的な威圧感は紛れもなく死線を幾度も超えてきた、闘将のそれであった。
 がたがた、と震えながら聖美が一歩後ずさる。日吉が出口を塞いだまま、ゆっくりと中に入り込んでくる。マンションの5階。他に出口など在ろう筈もない。
 ……否、一つある。窓から屋上に抜ける。
 5階の上は屋上だ。聖美の部屋の窓から、壁を伝って屋上に逃れる事が出来るかもしれない。
 ……それも、目の前のこの巨漢をどうにか出来ればの話だ。今、玄関を完全に制圧しつつあるこの男が、次のアクションに移る前に……聖美は脱兎の如く室内に駆け戻り、ドアを閉める。

「……無駄なことをするな、聖美。でないと、またあのお仕置きをしなくてはならなくなるぞ」
「…………」

 すくみ上がる聖美。
 お仕置きとは、かつて日吉の逸物に歯を立てた時に聖美にしたものだった。
 低出力のスタンガンの電極をクリトリスに針金でつなぎ、電池が切れるまで電流を流し続けたのだ。
 クリトリスが燃え上がるようなあの感触は、出来れば二度と感じたくはない。だが……彼女は瀬戸際に立たされていた。
 奴隷の一生か、それとも……自由か。真実との未来を得るためには、奴隷でいてはいけない。
 室内の扉の前に箪笥を引きずる。火事場のなんとやら、重たい箪笥をなんとかドアを塞ぐように配置すると、そのまま聖美は窓を開け放つ。
 カーテンが風に巻かれて外に膨れ上がる。彼女はそのまま窓枠に手をかける。
 下を見てはいけない……。この高さから落ちて無事で住むのは猫ぐらいのモノだろう。
 手すりに脚をかけ、雨樋を止めている金具を掴み、身体を引き上げようとする……。
 ずるっ!!
 手が滑り、一瞬聖美の身体が宙に浮いたようになる。咄嗟に手すりに手を突いてバランスを保つ……。

 無理だろうか? 否、無理だとするなら後はあの日吉に運命を任せる他はない。だが、それを選ぶなら……そうだ、ついさっき毒のカプセルを飲もうとした自分ではないか!
 ドアがガン、ガンと音を立てて壊されていくのが背後で聞こえる。
 あの巨漢なら、重たい箪笥も恐らく数秒でのけてしまうだろう。そうなったら、日吉は彼女を掴み、今僅かに保っている理性を粉砕すべくあの醜悪な触手を彼女の中に撃ち込むだろう。
 再び、意を決して雨樋の金具を掴む。
 だんっ!!
 思いっきり手すりを蹴り、さらに上の金具に手を伸ばす。
 どんな奇跡が起こったのだろうか、聖美はその金具を掴むことに成功した。そのまま、足が壁に接触するや、思いっきり突いて身体を浮かす。
 ギシ、と金具が軋んだが同時に聖美のもう一つの手が屋上の手すりを掴むことに成功した。

「……も、……もう……真実に……鈍くさいなんて………」

 ぜぇぜぇ言いながら、こんなアクションが出来る体力があったのかと我が事ながら驚く。

「絶対……ぜったい、言わせたりしないもん……もう、言わせないんだから……」

 全身の力を振り絞って、身体を手すりの上に預け、ゆっくりと屋上にあがる。
 今や彼女は手すりに両手を絡ませ、30センチほどの出っ張りに身体を預ける状態となった。あとは、この手すりを越えるだけ……そう思って視線を転じたとき、彼女はさらに絶望を感じた。
 屋上の扉から、飯島が姿を現したのだ。口元に張り付いた笑みは、いつになく凄絶だった。

「……お仕置き、しましょ。聖美ちゃん……随分怒られて、アタシ、ショックだったわ……」
「……ご愁傷様……」

 冗談を言う余裕があるのか、と聖美は驚く。下半身の疼きは収まっていたが、膝ががくがくしている。
 乳首がピン! と立っているのが自分でも解るが、緊張したときはいつもこうなるのだ。
 そう…今の自分はかなり正常な状態に近いぞ。聖美はそう言い聞かせると、その出っ張りの上にゆっくりと立ち上がる。

「……そう、良い娘ね。そのまま、ゆっくりとアタシの所に来なさい。そうね…あのお仕置きの時間は電池4つ分にしてあげるわ。この間は2本だったわね……ホントは死ぬまで流しっぱなしにして上げようかと思ったけど…」

 そこまで言って飯島が固まる。
 聖美も固まった。目の前に一機のヘリコプターがホバリングしていた。サイドドアが開いていた。そして……一番の驚きは、そのドアにしがみついている物体が何であるかを知ったからだった。

「……なんで……」

 ドアにしがみついた真実と、聖美は同じ呟きを発する。みなみの方は、真実が発した呟きに反応して首を傾げる。

「何?」
「なんで、こんなモン持ってるんだよ、お前ら……」
「だから言ったでしょ! 仲間が増えれば出来ないことはないんだって」
「何でも出来過ぎって感じがするよ」

 真実はそう言うと、思いっきり床を蹴って宙に舞い、聖美のすぐ側に飛びついた。

「きゃ!」
「聖美……逢いたかったよ。相変わらず綺麗だね」
「も……もう……何言ってるのよ……こんな時に……」
「さて、ゆっくり話していたいけど、それは後だ。とりあえず、ここから脱出するよ」
「そう…じゃ、あのオカマやっつけてくれる?」
「力仕事、苦手なんだよ」
「他に道、あるの?」
「……あるよ……」

 飯島が何かをわめいているが、ローターの爆音にかき消されて何も聞こえない。そして、真実は聖美の脇から手をまわし、抱き締めると、そのまま下を見る。

「……ねぇ、まさか……」
「おーい、そこの筋肉馬鹿!!」

 聖美が下を見下ろすと、ちょうど何事かとヘリを見上げていた日吉が真実を睨み上げた瞬間だった。

「いくぞッ! 究極!! マサト・キィィィィィィィック!!!」
「っきゃあああああああっ!!」

 聖美を抱えた真実が出っ張りを蹴り、日吉の顔面めがけてまっしぐらに落ちていく。
 ぎょっとした日吉は、しかしあまりの事に対応できず顔面に真実の足を受け止めることになった。

「うぐぉぉぉぉおぉおおおおおっ!!!」

 バランスを崩した日吉が身体を支えようとする。強靱な肉体が、二人分の体重に一瞬あらがう。
 真実と聖美は、まさに素晴らしい奇跡の連続のお陰で二人同時に日吉の顎に蹴りを入れた。反動で室内に二人が飛び込むと、日吉の悲鳴が耳に届く。
 その一発は日吉の最後のバランスを崩した。まさに獣のように、巨体が一瞬宙に舞い、みなみの見ている前でそれは肉の彗星となって階下の住民達の願い事を聞き届けていた。
 恐らく、天国か地獄にたどり着いて彼らの願いを神様か閻魔様に伝えてくれるだろう。

 真実と聖美はそんなものはあてにしていなかった。彼らは自分の手で未来を掴もうとして、今その第一歩を記したのだ。
 とりあえずは、日吉の顎に。

「さ、行くよ……」
「何処へ?」
「決まってる」

 真実は聖美を抱えて階段を駆け下り、漫画チックに地面に突き刺さった日吉の横を通過して自分の車に聖美を押し込め、自らは運転席に飛び乗った。

「……ねぇ、何処行くの……」
「イイところ」

 真実は車を急発進させる。上空のヘリが急旋回して彼らの視界から消える。屋上ではあんぐりと口を開けた飯島が地面に突き刺さった日吉と、飛び去るヘリと、走り去るレジェンドを交互に見ていた。

「……なんだっての……」

 それを一番聞きたかったのは、案外聖美かも知れない。

 …………更に二時間後。

 既に随分走ったのだろう。ここは神奈川と静岡の県境の有名な峠……箱根である。
 真実と聖美は、その頂上にあるホテルに車を入れ、ダブルの部屋を一室取ったのだ。

「……イイ所……ねぇ……」
「イイだろ?」
「イイけど……」

 聖美は先にシャワーを浴び、身体を清めていた。甘いシャンプーの香りが部屋に充満する。濡れた髪を束ねた聖美は、白いうなじをむき出しにしている。

「……聖美……」

 バスローブを着た真実が、同じバスローブを着た聖美に歩み寄る。

「……真実……」

 答える聖美の声が震える。

「あの連中もここまでは来ない。……聖美、聖美……ゴメンよ……辛かっただろう?」
「…うぅん……今、あなたとこうしていられるから……あの頃の事なんて……どうでも……いいよ」
「でも……綺麗な……大好きな聖美が……あんなに……酷い目に遭っていたのに、俺は何もできなかった……」

 真実が聖美の身体を抱き締める。ふるっ、と震えた聖美は再び下半身に疼きが戻ってきたのを感じる。

「聖美、俺は……聖美が大好きだ。可愛くて、綺麗で、おおらかで、素直で、優しくて、誰よりも俺のことを想ってくれている……聖美が、大好きなんだ」
「……あぁ……真実……私も、私も……あなたが大好き。大好きなの……真実……」

 真実の胸にもたれかかるようにする聖美。真実は、そんな聖美の耳元に唇を近付け、何度も何度も聖美の名を呼ぶ。
 ふるふると聖美の身体が震える。耳元に息が当たるたびに、耳朶を真実の声が打つたびに聖美は下半身の疼きが強くなることを感じる。
 両手をぎゅうっ、と握り、真実の胸元にしなだれかかると、真実は聖美を軽く抱いてそのままベッドの上へと押し倒す。

「……あっ……まさ……と……」
「聖美……可愛いよ、聖美……」
「あん……真実、真実ぉ……」

 真実が聖美の首を抱き、軽く唇と唇を触れさせる。
 そのまま左手は胸元へと進み、柔らかな、形の良い胸の双丘をふにっ、と握る。真実の手の指を柔らかく受け止め、真実はその感触に嘆息する。

「……聖美、凄く柔らかい……綺麗な胸だね……」
「んっ……んっ……真実、……真実…の……」

 手を伸ばすと、聖美は真実の股間に触れる。それが固くなって聖美の脇腹を突いていたのを感じたからだ。

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