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続・奴隷商人ライブネクスト

煉獄の戦乙女


登場人物一覧

藤沢聖美 ごく普通のコスプレ少女。愛らしい顔と少し肉付きの良い肢体を持つ。加藤真実という恋人がいる。
加藤真実 聖美の恋人。無駄のない体つきをした青年。
須藤 謎の男達のリーダー格。体格がよく、低い声で相手を威圧する。
日吉 ゴリラ並の体格を持つ。見た目通り力が強く、身体も頑丈なボディーガード。
高江洲 もと医師を目指していた男。女性の身体の構造を知り尽くし、内部から奴隷化する。
飯島 謎の男。高い知性を持つ参謀役。女言葉でしゃべる男。
みなみ 偶然から、真実と知り合った少女。肩の辺りに切りそろえた髪型、背の低い少女。
北郷良治 聖美のマンションの隣に住む住人。引きこもりのダメ人間だが、彼の行動が新たな火を呼び起こす……。

第二話 小春日和

『じゃあ、もう少し様子を見てから……かしらね』
「ああ、出来ることなら、聖美には少し落ち着く時間がほしい。治療法がそういう形なら、なおのことね」
『……そうね。彼女には辛い想いをさせすぎたくないものね』
「……ま、まぁな」

 真実の電話口に、みなみのからかうような声が響く。普段ならどうということのない軽口なのだが、聖美が絡むといつも彼の余裕は半分以下に減ってしまうようだ。

「とにかく、俺はあんたらに協力する気ではいる。けど、その前に……」
『わかってる。それまで私たちも、あなた達に無理に協力しろとは言わないわ』

 携帯電話の通話終了ボタンを押してから、真実はふと足を止めた。
 聖美の部屋に寝泊まりするようになって、もう4日が過ぎている。
 
 あれ以来、聖美達の周りにライブネクストの男達の影は見あたらない。だが、彼らは間違いなく聖美と真実の居所は探っているだろうし、8割方真実達が聖美の部屋に居る事は判明しているはずだ。
 手を出してこないのは何らかの理由があるのだろう。
 
 聖美の心と体のダメージは相当な物だった。未だに、夜中にうなされている声を聴くし、日吉や飯島によく似た人を見たとたん、おびえて真実の背中に隠れる事もしばしばあった。大抵は人違いだったが。
 ひどいときは夜中に子供のように泣き叫びながら目を覚ますこともあった。
 
 一日も早く彼女の治療を行いたいのだが、薬剤で崩されたホルモンバランスは、同じ方法でないと直せないという。つまり、子宮に薬をまた投与するのだ。
 今の精神状態でそれを行うと、取り返しがつかなくなるおそれがある、と真実は強硬に反対した。医師もそれを認め、結局未だに聖美は不安定な心と体を抱えて毎日おびえながら暮らしているのだ。

 気がつけば、真実は聖美のマンションの入り口に立っていた。
 偵察と警備をかねて、また聖美の仕事場までの安全を確保する意味でも、彼は今日、聖美の会社までの道のりを自ら歩いて偵察していたのだ。
 安全を確かめた彼が、再び戻ってきたことを知らせる為に、真実は聖美の部屋の電話を鳴らす。

『もしもし?』
「ああ、聖美、俺。今から部屋に行くから」
『うん』

 幾分元気にはなってきた。だが、以前の様な快活さを取り戻すのは少し先の話になるだろう。
 ……それに……。

 真実は思う。
 まだ、彼自身にも整理を着ける時間がほしいのだ。
 聖美が拉致されて、犯されたあげくに薬物中毒に陥っている。それは彼女の責任ではないが、だからといって彼が何も感じない訳ではないのだ。
 
 鍵を開けて貰い、真実は聖美の部屋へと入る。丁度衣装を片づけていた時なのか、室内にいくつもの衣装が散らばっていた。
 
「あ、真実ぉ」

 座り込んだ聖美が、帰ってきた真実を笑顔で迎える。
 ふと、その前に置かれている衣服に見覚えがある事に、真実は気付いた。

「聖美、これ……」
「えへへ」
「……懐かしいな」

 聖美の前に広げられた、ワインレッド色の制服を見て、真実は思わずため息を吐いた。それは、彼女が通っていたミッションスクールの頃の制服だった。
 
 ワインレッドを貴重としたワンピースで、白い縁取りがしてある。袖の先はカフスになっており、肩からはケープを掛けるようになっている。
 白いケープの縁取りは入学年ごとに異なり、聖美のそれは青だった。

「真実、この制服好きだったよね」
「あ、え?」
「だって、デートするとき、いつも学校帰りにとか、制服着てきてくれとか……そんなんばっかりだったじゃない」
「そ、そうだっけ」
「うん」

 笑いながら聖美が、制服についた埃を払う。
 真実が、ゆっくりと手を伸ばす。確かに、それは覚えのある事だった。
 やや短めのスカートや、薄い布地で出来たワンピースが形作る身体のラインが好きだったのもある。
 それに、ワインレッドのワンピースと雪のように白い聖美の肌は、対比するとまるでお互いを高めあうかの様に魅力を増していた。
 
「まだ着れるかな?」

 真実が言うと、聖美の目が一瞬冷たくなる。

「あ、いや、だってほら、聖美って全然太ってないし……」
「でもね、背は伸びてるの。体重も少しは増えてるから、横幅も増えてる気がするし……」
「大丈夫だよ。着てみない?」

 また冷たい目。だが、すぐに元の聖美の表情に戻ると、かすかに笑いながら立ち上がる。

「ん、じゃあ、あっち向いてて……」
「えー? 見せてくれないの?」
「………イヤ」

 少し厳しい顔で見つめられると、真実はさすがに勝てない。素直に彼女に背を向けると、窓の外へと視線を泳がせる。
 丁度、ベランダの側を鳥が飛び去っていくのが見えた。その向こう側をヘリが一機、ゆっくりと飛んでいく。
 窓をふるわせてローターの音がかすかに聞こえてくる………。

「………いいよ」

 その声に、真実は我に返って振り向いた。
 目の前に、ワインレッドの制服に身を包んだ聖美の姿があった。
 
 それを着なくなってもう4年にもなるのに、彼女は今でもその制服を着る資格が十分にあるような気がした。
 恥ずかしそうに身をよじると、胸元のリボンが揺れて乳房を示すふくらみをなぞる。
 
「可愛いよ、聖美」
「でお……」

 またも恥ずかしそうに、聖美は身をよじった。手が無意識にスカートの裾を押さえる。
 それを見て、真実は理解した。

「……うわ、スカート短いな……」
「うん、それに胸の辺りもちょっときつい……」
「成長してるんだね……」
「でも、でもっ、私、胴が長くなったんじゃないよね、ね?」
「え?」

 思わず吹き出しそうになる裏声で、真実は思わず問い返した。

「だって……」

 確かに、彼女が押さえてるスカートの裾はずいぶん高い位置にある。

「違うよ、聖美。脚が長くなっただけだろう? そりゃ、成長してるんだから多少は伸びてるだろうけどさ」

 ワインレッドのスカートからは、真っ白な脚が伸びている。思わず手を伸ばすと、その白い脚に触れてみる。

「やっ……」
「………」
「ちょ、ちょっと、真実……あんま触らないでよ……」

 スカートの裾は、微妙に股間を隠している。が、少し身をかがめてのぞき込めばすぐ見えてしまうような長さだ。
 まっすぐに見通せば、視線が股間のスリットをかすめるような感じになる。
 そして、ブラジャーを着けた胸は窮屈そうに収まっている。そのラインが、脇から背中にかけて見えているのが、妙にエロティックだった。
 スカートが短くなった理由はそこにもあるのだろう。やや小ぶりではあるが、ケープで隠れた胸の部分が隆起しているのが判る。
 
「でも、可愛いぞ。すごく色っぽい」
「やっ……」
「聖美」

 手を伸ばすと、真実は聖美の身体を抱く。薄い制服の布地から、彼女の体温が両腕を通して伝わってくる。

「ちょっと、真実……」
「聖美………」
「…………もう」

 諦めたように、聖美は真実の身体にしなだれかかる。

「……ん……もう、ホントに……昔から、この服着たままっての、好きだったよね、真実は……」
「人を変態みたいに言うな」
「変態さんだよぉ………」
「……よーし、変態さんを怒らせたらどうなるのか、思い知らせてやるぞ〜」
「きゃー」

 真実が、ゆっくりと聖美の身体を抱き締めていく。
 
 ……その光景を離れたところから見ていた人物が二組居た。
 一つは………

「……ったく、なんでああ、あの子達は脳天気なのかしらね」
「まぁまぁ」
「もう、こっちはヘリまで使って警備してるってのに……」

 少し離れたところから、監視用にヘリコプターが飛んでいる。みなみの所属する組織、『グリーン・ジュエル』所有のものだ。
 コ・パイロット席にはみなみが、パイロット席には、別の女性が座っている。

「まぁまぁ、みなみ、もう少し落ち着いて……」
「あのねぇ。こっちは忙しい合間を縫ってこうやって監視してるのにさ」

 モニターの中では、早くも身体を重ね始めた二人の動きが克明に表示されてる。
 いらだったみなみが、カメラの操作スティックを左手で乱暴に操作する。
 機首に装備されたカメラ・ターレットが旋回し、モニターの中に面白みのない夜景を映し出す。

「……沙由理、悪いけど裏側にまわるわ。あいつらはほっといていいわよ」
「了解」

 パイロット席の女性、中西沙由理が頷くと、ラダーペダルと操縦桿を操作する。
 機首が大きく巡り、ヘリはゆっくりと巡回コースを外れた。

 ……そして、もう一組の男達……。

「……呆れたわね」

 飯島がため息を吐いて言う。こちらは、聖美の住むマンションの向かいにある、雑居ビルの屋上のカメラからの画像だった。
 一週間後に戻る須藤に、知られる訳にはいかない。それゆえ、このカメラの設置は飯島のポケットマネーを使ったのだ。
 居たい出費だったが、おかげでいくつか情報は入ってきた。
 そして……。

「高江洲」
「はい?」

 コンピューターに向かっている高江洲が、モニターから顔をあげる。

「そっちはどうなってる?」
「見つけたよ。ホント、おあつらえ向きの人材じゃないか?」

 笑いながら、高江洲は飯島に画面を見せる。
 北郷良治……聖美のマンションの隣室に住む、あの男の開設しているウェブ・サイト……一般的に言うところの、ホームページだった。

「へぇ。小説書きねぇ」
「色々付け入る隙はありそうですね」

 笑いながら、高江洲はページのあちこちに置かれた『リンク』をクリックしていく。
 画面の中に、陰気な文章が延々並んでいるのを読んで、飯島が額を押さえてうなった。

「……何、これ……」
「こういうヤツみたいですね。ま、こんなのに……」

 クリックすると、メール送信画面が表示される。そこに、高江洲は適当な誉め言葉を散らした文章を作成し、送信ボタンを押す。

「こうやってメールなんか送ってやると喜ぶんですよ」
「取り入ってどうするの?」
「使えると思いませんか?」

 高江洲が、飯島の前のモニター画面を指さす。丁度、ヘリコプターが一機、ゆっくりと旋回しながら画面から消えていくところだった。
 
「……あれ、どうせ例のネズミどものでしょ? 邪魔だけど、追い払えるほどおおっぴらに動く訳にはいかないですし」
「そうね」
「なら、警戒されずに聖美を拉致する方法として使えないかと思ったんですよ。こいつの性的嗜好は妙に歪んでいて、その所為で今は引きこもりになってるんですが……」

 高江洲が、プリントアウトした資料を差し出す。
 ページをめくると、そこには彼が閲覧したサイトや、彼が過去に購入したりレンタルしたアダルト・ビデオの一覧がずらりと並んでいた。

「……SM、誘拐、拉致、調教………ホント良い趣味してるわね」
「ええ。そして、過去の言動を調べたところ、いくつか常軌を逸した言動を、しばしば取っているようですから……」
「焚き付ければ働いてくれる、ってわけね」
「そうです。それにこいつ、仕事をなくして家賃も滞納して、かなりマズい状態みたいですからね。金を使っても動いてくれそうです」

 高江洲が、さらにいくつかのメールを、違うアドレスから送信する。
 こうする事で、彼のサイトには一度に沢山の、『彼の理解者』が集まることになる。タイミングは確かに重要だが、北郷程度の人間なら単純に喜んで終わりだろう。
 さらに、掲示板と呼ばれるコミュニティにも書き込みをすると、満足そうに高江洲はディスプレイの中の画面を閉じた。
 
「さ、これで罠の準備は出来てます。……加藤真実、だっけ? 彼も一緒に捕まえますか?」
「そうね……。出来るならそうしたいわね。でも、無理は禁物よ」
「……わかりました」

 飯島が、ゆっくりと振り返る。
 彼の席の目の前にあるモニターには、余韻に浸っている二人の姿が克明に表示されている。
 もう一度、呆れたようにため息を吐いた飯島が、背を向けて部屋から出ていった。
 高江洲も、再びモニターに向かい合うと、画面に、薬の組成表を呼び出す。
 
 彼の思想は、いつも悪魔の思想だった。
 薬を作るとき、いつもその呪縛から逃れる為には地獄の苦しみを味あわなくてはならないように、巧みに多種の薬をブレンドする。
 今回、聖美に試した方法はうまくいったはずだった。実際、苦しみながら彼女は今もその呪縛から逃れようと必死なのだろう。
 だが、そう簡単には抜けられないようにして……。
 
 画面の中の組成をいくつか弄ると、その結果をシミュレートしていく。聖美の現在の身体の状態は、おそらく聖美本人より彼の方がよく判っているはずだ。
 
 それなら、今度は……光の見えない、淫欲と苦痛の地獄へと堕ちて貰おうか。
 
 最後の一つをシミュレートし終えると、彼はその結果をプリントアウトした。

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