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続・奴隷商人ライブネクスト

煉獄の戦乙女


登場人物一覧

藤沢聖美 ごく普通のコスプレ少女。愛らしい顔と少し肉付きの良い肢体を持つ。加藤真実という恋人がいる。
加藤真実 聖美の恋人。無駄のない体つきをした青年。
須藤 謎の男達のリーダー格。体格がよく、低い声で相手を威圧する。
日吉 ゴリラ並の体格を持つ。見た目通り力が強く、身体も頑丈なボディーガード。
高江洲 もと医師を目指していた男。女性の身体の構造を知り尽くし、内部から奴隷化する。
飯島 謎の男。高い知性を持つ参謀役。女言葉でしゃべる男。
みなみ 偶然から、真実と知り合った少女。肩の辺りに切りそろえた髪型、背の低い少女。
北郷良治 聖美のマンションの隣に住む住人。引きこもりのダメ人間だが、彼の行動が新たな火を呼び起こす……。

第四話 快復治癒

 北郷は悩んでいた。
 次の小説のアイデアに詰まってしまったのだ。
 創作というのも烏滸がましい、エロビデオとエロ小説の写しのような小説だったのだが、ここに至ってネタが枯渇してしまったのだ。
 さらに、メールや掲示板では次の作品を催促する声が挙がる。有頂天になった北郷は、なんとかして次の小説にかかろうと必死になっていた。
 だが、もとより大した想像力の持ち主ではない。
 散らかったアダルトビデオやポルノ小説も、既にネタとして使い尽くしてしまった。

「……困ったな……これがスランプってやつかな」

 言いながら、北郷は寝転がる。
 パソコンの電源は入ったままだ。
 と、突然扉が荒々しくノックされる。

「北郷さん! 北郷さん!! 居るんでしょ?」
「…………っ!」
「北郷さん! とにかく出てきなさいよ!!」

 渋々部屋の扉を開けると、黒いスーツを着た男が、厳しい顔をして北郷を見下ろしていた。

「……はい」
「はいじゃないよ、北郷さん。あんた、今月のお家賃まだ払ってないよ?」
「あの、すいません、持ち合わせがなくて……」
「あんたねぇ……。それじゃこっちだって商売上がったりなんだよ。わかる?」
「すいません……」
「………ったく」

 スーツ姿の男が舌打ちすると、たばこに火をつける。

「まぁ、だったらあと一週間ぐらいは待つけど、それまでに用意出来る?」
「はい……」

 自信なさげな北郷の態度に、すこし不安そうな顔をする男。

「本当に大丈夫?」
「はい」
「……じゃ、来週また来るから。ちゃんと用意しておいて」

 ドアを閉めると、北郷は足下に転がっているゴミ袋を蹴飛ばした。

「やってられるか!!」

 典型的な引きこもりである彼は、既にバイトをせずに半月近い時間を過ごしている。
 手持ち金は尽き、今はただ買い置きの食料だけで食いつないでいる。
 だがそれも限界のようだった。バイトを探さなくては……。
 彼はパソコンの方へと脚を運び、操作を始めた……。
 
 同じ頃。
 新宿の中心地からややそれた所にある、グリーンジュエルの本部があるビルでは、聖美が医師の診察を受けていた。
 きわめて高いテクノロジーを誇るこの医院は、ライブネクスト所有のビルの一角にあり、真実と聖美がここに通うのももう数度目だった。
 
「真実君!」

 不意に名を呼ばれ、振り返ると、沢渡みなみの姿が目に入る。
 150cmの低い身長、ショートカットの髪型、丸い大きな目。
 恐ろしく童顔に見えるこの女性は、しかし真実と一つしか違わないのだ。

「や、みなみさん」
「今日は診察日だっけ? 聖美ちゃん、どう?」
「……まだ夜中とかに悪い夢見るみたいだな……。でも、大分元気になったよ」
「そう……よかった」

 ドアの方を見ると、顔を赤くした聖美が、ガウンを着て出てくる。

「あ、みなみさん……」
「聖美ちゃん、こんにちは。どう?」
「………うん……」

 恥ずかしそうにしながら、聖美はガウンの裾を抑える。白い脚がガウンの裾から伸びている……。
 
「聖美、終わった?」
「……まだ……。あと、ホルモンバランス検査ってのをやんないとダメなの」
「………あ」

 みなみの顔が赤くなる。

「どんな検査?」
「聞くなっ!!」

 みなみの平手が真実の後頭部にヒットする。
 いきなりの行為に流石に真実が青筋を浮かべて抗議する。

「何をするんだよ!」
「だから!! 聞かないの!!」
「何を!!」
「聞くな!!」
「何を!!」
「聞くなっての!!」

 聖美がきょとん、とした顔で、二人を見る。
 眼鏡が半分ずれており、見開かれた目が半分、眼鏡の上のフレームに重なっている。
 おっとりした顔立ちの聖美の、一番愛らしい顔と言える……。

「……あの、真実……」
「聖美ちゃん、言いたくないことは言わないでいいのよ」
「……そんな検査なのか?」
「……うん。みなみさん、大丈夫。真実にもちゃんと話してあげないと」
「……でも」
「平気。あのね、ホルモンバランス検査は……子宮の中とか、そういうの見るの」

 言い終えてから、顔を真っ赤にしてうつむく聖美。
 真実の方は、その聖美を見て言葉を失っていた。

「……じゃ、じゃあ……やっぱり、その……」
「……うん……その……この中……」

 聖美が下腹部を指差す。
 真実が聖美の肩を抱き寄せると、頭を何度も何度も撫でる。

「わ、悪かった。……恥ずかしい思いさせたな」
「……ううん。……ごめん、行かなきゃ」
「わかった。……また後でな。ラウンジで待ってる」
「うん!」

 言い残して、聖美がまた別の部屋へと姿を消す。
 真実はため息を一つ吐いて、みなみに向き直った。

「……で、どうしたんだい? 何か用事、あるんじゃないか?」
「そうね。ラウンジ……行きましょ?」
「ああ」

 背を向けて歩き出すみなみ。後をついて行く真実に、背中越しにぽつりぽつりと言葉を投げてよこす。
 
「聖美ちゃん……結構深刻な状態だったらしいよ」
「ああ」
「精神的外傷も……」
「ああ」
「ちゃんと大事にしてあげてる?」
「もちろんそのつもりだ」

 親身になって心配してくれているみなみに、真実は信頼をおいている。
 かつて、真実に本気で一喝を入れて呆けた状態から引き戻し、或いは影になり日向になり、真実と聖美を護ってきてくれていた女性だ。
 その彼女が、ラウンジのテーブルにつくなりファイルを差し出した。

「……これは……」
「ライブネクストの組織について、よ。目を通してみて」

 ファイルを開くと、いくつかの条項が目に入る。その大半に、頭には「ライブネクスト」という単語がついている。
 
 ライブネクストの本部は香港にある。強大な影響力を持った組織であり、香港の警察も検挙はあきらめているらしい。
 また、日本では、西日本支部と東日本支部の二カ所だったが、東日本支部が一度西東京支部と東東京支部に分裂し、再び関東支部として併合した。
 そして、近々アメリカにある支部の援助を得て、日本支部を一本化するという。
 
「……こんな事を知ってどうするんだ?」
「敵を知り、おのれを知れば百戦危うからず。……あなたが戦う相手のことを知って置いて欲しいの」
「俺が?」
「そうよ。聖美ちゃんの救出と治療……代わりに、あなたはライブネクスト殲滅の為に戦ってくれる約束でしょ?」
「そうだけど、聖美はまだあんな状態だ。まだ……」

 みなみが、ファイルの一カ所を指差しながら言う。

「あなたの言うことは判ってるわ。聖美ちゃんの状態を見ながら……確かに計画は進めるべきね。でも、時間はあんまりないの。此処を見て」

 指差した所を、真実はゆっくりと読んでいく。

「……日本支部一本化を記念する、大規模な『パーティ』開催……なんだこりゃ?」
「どうやら、日本支部が一つになった事を記念してパーティを開く……という事ね。ただし、こいつらのパーティがタダのパーティじゃないことは確かね」
「……どういうのだ?」
「過去に行われた『パーティ』のメニューには、『試食』『メインディッシュ』という風に、女の子達を食事にたとえていたわ」
「食事に……?」
「そう。ようは……その、奴隷にされた女の子達を……好き放題……弄ぶの」

 真実が一瞬動きを止める。
 聖美が、大柄な日吉の逸物を受け入れ、あえいでいた光景……それを思い出してしまったからだ。
 
「奴隷の数は、100や200ではくだらない。参加者は、今回のパーティでは500人以上と言われているわ」
「……で、これをどうするんだ?」
「つぶすのよ。香港、アメリカ、ヨーロッパ……あらゆる所にいる、ライブネクストの連中がこのセレモニーに注目してるわ。それをつぶして……」
「せめて日本だけでもきれいにしようって事か」
「そうよ」

 真実がファイルを閉じて顔をあげる。
 その視線の先に、私服に着替えた聖美の姿がある。
 
「あ、聖美……」
「お、お待たせ……」
「じゃ、か、帰るか?」
「うん………」

 あわてて立ち上がる真実。みなみがその顔をじっと見上げていたが、やがてため息を一つ吐いてから立ち上がる。
 
「真実君……。またね」
「あ、ああ」

 背を向けて、タイトスカートに包まれた形のいい尻を真実達に見せつけながら、彼女は建物の奥へと歩いていく。
 一瞬、みなみを怒らせたか……と不安に思ったが、みなみがライブネクストの事をこれ以上話さなかったのは、聖美に対する気遣いだと知れる。
 まだそうやって気を遣ってくれている以上は、すぐにどうしろとは言ってこないだろう、と真実は思った。

「真実……?」
「…………」
「ねぇ、真実……」
「ん?」
「帰ろう?」
「ああ」

 聖美の肩を抱くと、真実はビルの入り口へと向かう。
 だが、聖美の方は浮かぬ顔をしていた。真実達の話を、わずかながら立ち聞きしてしまったからだ。
 
 『パーティ』の話……ライブネクストの話。
 それは、とりもなおさず、彼がまたあの悪鬼のごとき連中とかかわらなくてはならない事を意味していた。
 それは、彼女にとってはぞっとするような話だった。
 自分が受けてきた仕打ちは、今でも克明に覚えている。そして、その結果自分が今どうなっているのかも。
 
 身体は時折、彼女の意志を無視して疼き、時折強烈な衝動が彼女の身体を苛む。
 異常な高揚感が襲って来て、すぐにそれが落胆に代わり、今度は世界中を敵に回したような感覚に苛まれ、最後は救いようのない闇に落とされる。
 何もかもを放棄したい気持ちにすらなる……。

「真実……」
「ん?」
「……あのね………」
「どした?」
「……………なんでもない」

 いずれ、自分から話してくれる時まで……彼女は聞くまいと心に決めた。

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