1999年 5月11日 午前1時…
まこと「…では、柳川をリーダーにします」
でくの「はい、じゃ、こっちも」
二人がそれぞれ、柳川のカードをデッキから取り出し、フィールドに置く。
片方に座するはまこと。
デッキの組み方、戦術ともに発展途上にあるプレイヤーである。
主に一撃強襲、全面攻撃を指向するものの、カードの巡りによってはその攻撃力を活かす事も出来ず、敗退することも少なくない。
また、デッキ全体のバランスも悪く、賢さの高いキャラクターをブーストするアイテムもそろっていない状態で、なおかつ賢さの高さを活かすバトルカードも無い状態である。
対戦相手は、でくの。
デッキ構成は良く練られており、実力も十分な女性プレイヤーである。
回復系や攻撃系で非常に良くバランスの取れたデッキであり、また戦術に沿ってデッキを作成している為、極めて勝率は高い。
まことは過去数度の敗北をかみしめる。
何度も続く敗北に終止符をうつべく、今彼はフィールドに立つ。
まこと「……では、コイントスを」
でくの「……」
このルールでは、コイントスを行い、行った方が先攻後攻を決めることが出来る。
トスした結果、表。まことは先攻後攻を選ぶ権利を得る。
でくのは先攻を選び、序盤からアクティブに動くことが多い。
そのため、まことは先攻を選び、でくのの機先を制したい所だった。だが……。
まこと「…今まで貴女が優勢だった。なら、貴女が好きな方を選んでください」
でくの「……いいの?」
まこと「………」
無言でうなずくまこと。
でくのは予想通り先攻を選び、そしてそれぞれのリーダーを表向ける。
二人は同じ柳川をリーダーカードに選んでいる。このカードのスペックは以下の通り。
柳川:力属性コスト2:力3早3感3賢3根2 気力6(12)
特殊:狩猟者コスト2:力と早さに+3出来る(1ターン1回のみ)
根性以外にはこれといって弱点のない、優秀なキャラと言える。
狩猟者になれば力も早さも6(とアイテムのブースト)となり、力技では滅法強い。
でくの「…では」
でくのは柳川をコストとして消耗し、フィールドには佐藤雅史を出した。
雅史「…じゃ、行くかな」
能力は感性と早さに集約されるこのカードは、相手からバトルを挑まれた時に能力を
一つ+2出来る「消極的」と言う能力を持っている。
さらに、コストの要らないHM−12をフィールドに展開する。
HM12「………」
コストは不要だが、能力的には可もなく不可もなくなキャラカード。
属性が「力」である。マルチの量産型である。
量産型故、このカードは場にいくら出ていても良いという特典もある。
まこと「…相変わらず展開が早いな」
いわゆる「壁」と呼ばれるキャラクターカードの展開はこのゲームでは死活を分ける。
でくのは早くも3人のチームを確立し、戦闘態勢を整えたのだ。
まこと(……さて)
まことが行動しようとしたとき、不意に柳川(まこと)のキャラカードに付けられた一枚のアイテムカード……。
でくの「……恩を仇で返すみたいだけど、よろしくね」
それは、「おしゃべり」と呼ばれるカードである。
毎ターンドローしたカードを相手に見せるか、或いはそのキャラの気力を1減らすかしなくてはならない、結構痛いカードである。
でくの「…ターンエンド」
でくのの行動ターンが終了する。
まことは早くも大きなハンデを背負った状態になる。
まこと「えぇと……ドロー」
引いたカードは「スランプ」…つまり、一つの能力を−2するカードだ。
バトルの時に使用して有利にするなり不利な状態を緩和するなりに使用できる。
まこと:引いたカードは「スランプ」です。
システムメッセージが「おしゃべり」の効果を発揮してまこやんがドローしたカードをでくのに知らせる。
まこと「……よし、葵、頼むぞ!」
葵「……はい!」
でくの「来たな……」
松原葵。熱血する格闘少女、と一言で言うのは簡単だ。
だが、彼女は力を4、早さ3、根性3で、しかも特殊能力で根性を1上昇させる事が出来る。
しかも、その特殊能力を使用するときにはコストは要らないのだ。
この全面攻撃型デッキにあって、かなり重要な役割を果たすであろう彼女がフィールドに颯爽と姿を現す。
まこと「こちらはエンド」
でくの「……」
考えるでくの。
と、側にいる雅史が声をかける。
雅史「僕の…これ、使って下さい」
でくのの目の前には、「スポーツシューズ」のカードが示される。
これをリーダーの柳川カードに着けることで、早さが1アップすると言う訳だ。
ためらい無くそれを実行するでくの。
さらに、その柳川が更に一人を呼び出す。
でくの「お願いね、セリオ」
紅い髪が、颯爽と陽の光をあびてきらめく。
無表情さの中に、何か熱い物を秘めた彼女が、ゆっくりと所定の位置へと足を運ぶ。
まこと「…来たなぁ、紅いヤツ…シャアかっ!」
よくわからない事を言ってその場の動揺を誤魔化すまこと。
だが、セリオの登場により、葵は頬に汗が流れるのを感じる。
葵「……やっかいですね」
ふたたびまことのターン。
ドローしたカードはHM−12S…つまり、HM−12量産型マルチのタッグカードである。
2体のHM−12が存在しないと意味のないカードである。
でくの「ほうほう」
余裕の発言をするでくの。まことの額に僅かに焦りの色が見える。
葵「焦らないで、マスター……まだ序盤です」
まこと「解ってる。……だが……」
カードの巡りが悪いと、どうしても後手後手に回りがちな彼の戦術を少し考える。
ヘタをすれば、一気に攻撃を受けて反撃する間も無く終わってしまう。
まこと「……頼む」
一人の少女がゆっくりと姿を表すと、でくのの表情に僅かに動揺が走る。
でくの「……来た来た」
相原瑞穂。主に戦力の分析や、情報操作を得意とする……早い話が、デッキの一番上から3枚を、敵味方関わらず操作する事が出来る。
謀略戦には欠かせない少女だ。
まこと「だからゾンビじゃないんだって」
でくの「…撃ち殺せたら楽なんだけどね……」
なんとも物騒な会話をかわしながら、まことのターンが終了する。
でくのがカードをドローすると、少し微笑んでセリオにそれを渡す。
……エプロン。料理バトルの時に有利になるカードだ。
さらに、手札から一枚のバトルカード…戦場を場に出す。
「格闘技」……攻撃力:力 / 防御力:早
でくの「……バトル」
柳川(でくの)がずいっ、と前に出る。
この場合、間違いなく「格闘技」での戦いになる事は決まっているのだが……。
相手側にはコストを払う為の人数が十分居るのに対し、まことの側はまだ十分に人数が揃っていないのだ。
まこと「……柳川で受ける」
と、雅史とHM−12がそれぞれコストを払い、柳川(でくの)を狩猟者化する。
柳川(まこと)「ぐっ…」
3点のダメージを受けてよろめく柳川。
だが、まことの方はその一撃を受けた痛みを払うように腕を払う。
まこと「……うしっ!!」
でくののターンが終わる。
まこと側の反撃。
引いたカードは「保科智子」……能力的には平均的。「知力」がやや優れているキャラである。
柳川と葵が二人、息を合わせると一つのアイテムカードを呼び出す。
体操着……「力」と「早」をそれぞれ1あげるアイテムである。
これを葵に手渡すと、彼女は少し赤面しつつそれを身に着ける。
葵「……恥ずかしいですけど、なんとか…」
びしっ、とファイティングポーズを取る葵。
でくのがその姿を見て微笑む。
でくの「そういう使い方は、可愛いよね」
まこと「……体操着はブルマに限る」
相変わらず解らない事を言いながら、今度は瑞穂を使って保科智子を呼びだした。
まこと「……ターンエンド」
その言葉を待っていたかの様に、でくのが一枚のカードを場に出す。
バトルカード、料理である。
「料理」……攻撃力:感性 / 防御力:感性
感性のみが試されるこのバトルカード。
だが、忘れてはならない事が一つある……。
セリオ「…バトルします」
一歩前に出たセリオがエプロンを身につけて料理バトルと言わんばかりの態勢で挑む。
でくの「バトルバトル〜さ〜、バトル人生〜♪」
まこと「……柳川……」
他に受けられるヤツが居ないのも事実だ。
柳川が不慣れな包丁を手にして、料理バトルに挑む……。
でくの「ほい、感性6」
サテライトサービス……攻撃を仕掛けた時は、好きな能力を+1出来る能力。
この能力を用いて、さらにエプロンで+2、合計+3、元の感性の数値は3なのでセリオの攻撃/防御力は6。それに対して柳川は3である。
まこと「ぐ……」
だが、まことが痛みを感じるより先にさらに柳川(でくの側)が飛翔する。
でくの「ば・と・る☆」
まこと「うぐぁ……」
狩猟者化して襲いかかる柳川(でくの)、それを受ける柳川には手はない……。
まこと「これだ」
そう言って出したイベントカードは「スランプ」
相手の好きな能力値を−2出来るカードだ。
まこと「力を2下げるよ。せめてものレジストだ」
これで、+3された筈の攻撃力は+1になり、柳川(まこと)は1のダメージを受ける。
連続攻撃を凌ぎ、一息ついたまこと側。引いたカードはバトルカード「ボーリング」
そして、取った最初の行動は……。
智子「おおきに。この眼鏡、感じえぇわ」
アイテムカード・眼鏡を保科智子に預ける事だった。
と同時に相原瑞穂が自分側のデッキを確認し、その順番を有利になるように入れ替える。
……そして、ここからまことの反撃が始まった……。
まこと「……これだ」
バトルカード・「デコピン」……攻撃力:力 / 防御力:根性
葵「……行きます!」
同時に葵が走る。
右腕を突き出し、受けて立とうとする柳川に突進する。
根性で柳川の攻撃力を相殺し、自らは体操着で強化され、元々高い数値を持つ「力」で柳川にダメージを与える。
柳川(でくの)「ぐぉっ……」
2のダメージ、葵にはノーダメージ。
誇らしげに着地して、ダメージを受けてのけぞった柳川(でくの)を見る。
まこと「ターンエンド。……よくやったぞ、葵」
葵「……はいっ!」
葵が元気に頷く。
だが、でくのは黙ったまま、セリオに指示を下す。
でくの「料理……」
セリオ「はい」
てきぱきと料理バトルの準備をするセリオ。
柳川(まこと)が前に出る。
まこと「……すまん、柳川……」
柳川(まこと)「……いや……」
料理は苦手と言うわけではない。だが、相手が悪すぎるのだ。
セリオが再びサテライトサービスで感性にブーストをかけてくる。
まこと(……巧いな。攻撃力と防御力の両方を活かせる……)
3ダメージを受けて瀕死の柳川。のこりHPは2になってしまう。
このまま行けば、いつもの通り、柳川のHPは削り倒され、敗北する事になる。
だが、その状態を危惧する間も無く、再びでくのが柳川(でくの)に指示する。
でくの「バトル」
まこと「………ちぃっ……」
二人のキャラを消耗させ、柳川(でくの)が狩猟者化する。
だが、まことがこのまま状態を受け入れる訳にはいかない。敗北する前に、やるべき事があるはずだ。
まこと「セバスチャン、HM−12Sを使用する」
手札のキャラをコストとして払う事は、そのキャラカードを廃棄する事になる。
だが、まことはこの状態で敗北するより、相手の攻撃力を相殺出来るよう、狩猟者化する事を選んだのだ。
でくの「……とんとんか」
まこと「いかにも」
両者が所定の位置に戻る。
小さな傷が無数にあるが、お互い致命傷には至っていない。
ただ、柳川(まこと)の方は、既に息が上がっている。
でくの「……まぁいいけど。次のターンが楽しみだし」
まことの手には一つの策がある。
そして、ターンが始まると共に彼はカードをドローする。
……スカウト。有効なカードだ。
デッキの中から好きなカードを一枚選んで手札に加える事が出来るのだ。
と、柳川(まこと)がおもむろに後ろを向き、何かを取り出す。
柳川(まこと)「手作り弁当〜」(ドラえもん風に)
…感性の数値分だけ、HPを回復させるイベントカード。
彼は、あろう事かこのパーティの中でもっとも感性の高い、すなわち自分で弁当を作りそれをがつがつと食べていたのだった。
まこと「……ニブチンの集合体だからな…(涙)」
瑞穂が前に出ると、デッキの状態を調査し、順番を入れ替える。
でくの「ガンバレや」
だがまことは泣きそうだった……。
……だが、葵はそんなまことの背中をぽん、と叩く。
葵「……行きます」
まこと「頼んだぞ」
葵が頷くと、飛び出す。
それを迎え撃つ柳川は、再び葵の攻撃を受ける。
2のダメージ。
まこと 「ターンエンド」
でくのがドローし、そしてすぐにセリオに命じる。
でくの「バトル」
智子「ほな、ウチが受けるわ」
でくの「たのんまぁ」
智子「……ふん」
格闘技を挑んできたセリオに対し、智子はハリセンを手に闘う。
普通に闘ってもそこそこ戦える彼女は、それでもセリオから2のダメージを受ける。
と、でくのがニヤリ、と笑いながら一枚のカードを取り出す。
応急手当……HPを4回復させることが出来る。
まこと「……くぅ……」
柳川のダメージが完全に回復する。
葵がため息を付いて悔しそうにつぶやいた。
葵「……私の努力は………無駄だったんでしょうか」
でくの「無駄」
柳川(まこと)「……それより、死にそうなんだが…」
でくの「死んで」
カードをドローするまこと。リストバンド…力を1アップするアイテムカードを引いた。
まこと「……でくのさん、あんた眠いの?」
でくの「いいぇ。さくさくやってください」
わかった、と頷くとまことはリストバンドを葵の手に持たせる。
でくの「おお、来たか」
葵「……行きます」
再び葵が前に出る。
柳川(でくの)が雅史とHM−12の力を借りて、狩猟者化して彼女の前に立ちはだかる。
だが、葵も負けては居ない。
葵「……負けるもんかっ!!」
特殊能力、根性……根性の値を+1する。
これにより、「デコピン」での防御力が1点上がる事になる。
葵の攻撃力は6、柳川の防御力は2点。
そう、まさに柳川の唯一と言える弱点である、「根性」を突いた一点突破攻撃を葵は果敢にしかける。
だが、葵の方も根性をあげたとはいえ、狩猟者化した柳川の一撃の前に2のダメージを受ける。
だが、柳川は4のダメージ。先ほどまで彼女が苦労して与えたダメージと同じだけのダメージを一撃で与えることが出来た!!
まこと「エンド」
その声と共に、でくのがカードをドローしてからセリオに指示を出す。
セリオ「……行きます」
それに対して、柳川も智子も動かない。柳川が受ければ負けてしまうし、智子は何かを考えるようにじっとセリオを見ている。
瑞穂「……私が行きます」
おずおずと前に出る瑞穂。
止めようとした葵を、瑞穂自身が制する。
瑞穂「大丈夫です。勝算はあります」
だが、明らかにセリオの前に彼女の感性では勝ち目はない。
実際、5しかない瑞穂のHPが削られ、一気に1になる。
さらに、柳川が一歩前に出てバトルを挑んでくる。
それに対しては……
智子「……ほないくで」
柳川(でくの)「……良い度胸だ」
智子(……狩猟者化か?)
だが、柳川はそのままの状態でフィールドに乗る。
智子はかろうじてその攻撃の殆どを防ぎ、1のダメージを受けるに留まる。
でくの「……この方が良いんですよ(ニヤリ)」
そう言いながらエンドを宣言する。
まことの方は、すぐさま「スカウト」のカードを使用して、一枚のカードを手札に加える。
そのカードとは………
まこと「……あかり、頼むぞ」
神岸あかり。特殊能力の「弁当」でHPを回復させることの出来るキャラだ。
また、料理勝負ではめっぽう強い。
さらに、葵が一歩前に出る。
狩猟者化した柳川に一歩も譲らず、4のダメージを与え、自らは2のダメージを受ける。
もう彼女のHPは2。あと一撃で終わる。
対する柳川(でくの)のHPは4。
まこと「エンドです」
でくの「むぅ…」
でくのもさすがにここまで連続してダメージを受けるとは思っていなかった。
たった4回、攻撃を受けただけで、さらに応急手当を利用してここまで追いつめられるとさすがに笑ってはいられない。
だが、まことの側の柳川のHPは6。
それなら………。
でくの「セリオ」
セリオ「……行きます」
恐らくは料理勝負。
だが、それを受けられる人物は他にはもう居ない。
瑞穂「……あと、お願いします」
決意を秘めて、瀕死の瑞穂が前に出る。
一瞬の後、倒れた瑞穂がカードの墓場に運ばれていく様を、セリオは無表情に眺める。
歯がみしたまことがため息を付き、あかりは目を押さえる。
と、でくのはリストバンドを用意すると柳川(でくの)に持たせる。
でくの「で、バトル行くよ」
柳川(でくの)が腕をならす。
智子(あと2回か……)
智子が前に出ると、特殊能力「放棄」を宣言する。
HPは2失うが、そのバトル自体を終了させる事が出来るのだ。
でくの「はいはい。で、エンド」
まことがカードをドローする。
柏木初音を引いたのだ。
そして、葵が一歩前に出ようとする。
まるで瑞穂の死を目の当たりにして何かがふっきれたように。
だが、そんな彼女の前進を、満身創痍の智子が押さえる。
葵「保科さんっ……」
智子「アホ、考えてみ?
今あんたが戦いを挑んで、もし他の誰かに受けられてみ?
……もう、盾になれるヤツはおらへんのやで?」
葵が歯がみする。悔しいが、このターンで一気に片を付けようとした彼女のたくらみは失敗に終わったのだ。
あかりが弁当を用意し、柳川に渡す。
イベントカードほどではないが、それでもHPが回復する。
まこと「さすがでくのさんだな」
でくの「……何?」
まこと「このターンで片が付くと思ったが……そうもいかないな」
でくの「うん、片はつけさせないよ」
まこと「……なら……初音」
初音「……うん、解った」
柳川(まこと)に誘われて初音が登場する。
だが、彼女の登場はあまりに遅すぎた…そんな気がする。
まこと(あと少しあかりと、彼女が早く出てくれていれば…いや、それは…)
運だ。カードの巡りは、事このゲームに置いては重要な要素だ。
そして、それをどうにも出来なかったのなら、それは……敗北なのだ。
まこと「エンド」
でくのは、自分のターンになると一枚のカードを場に出す。
臨時収入……3コストを払ったことに出来る。そして、そのコストを2使って……
ティリア「……行くよっ!」
光の神の末裔、勇者ティリア。その特殊能力も、能力値も、優れたキャラだ。
そして、彼女の登場と共に、まことは一種の諦観を感じていた。
更に同時に柏木 梓……初音の姉が登場するに至り、完全なる布陣を見せるでくの側。
まこと「……明暗を分けた一撃……か」
でくの「………バトル」
柳川(でくの)が一歩前に出る。
でくの「……何故そう思うの?」
柳川(まこと)が一歩前に出て、そしてまことの後を継ぐように語る。
柳川(まこと)「……やはり、有利不利を考えるならあの体操着のカードは私が持つべきだった」
まこと「だが、そうしなかった。
……もしそうしていれば、さっきのターンで片づける事が出来ただろうにな」
柳川(でくの)と、柳川(まこと)がそれぞれ力を借りて狩猟者化する。
だが、僅差……僅かに、リストバンドのアイテムの分、柳川(でくの)の攻撃力が勝っていた。
1点のダメージを受け、膝を突く柳川(まこと)。
さらに、セリオが一歩間合いを詰める。
セリオ「……バトルです」
柳川(まこと)「……受けよう」
柳川(でくの)「……良い勝負だな」
柳川(まこと)「……勝敗に関わらず、良い勝負が出来ている気がするよ」
お互いの思いを、お互いのリーダーキャラを通して語るでくのとまこと。
柳川(でくの)「……そうだな」
再び、柳川(まこと)のHPは残り2にまで減少する。
でくの「ターンエンド」
まことのドローしたカードはリストバンド。
そのリストバンドを柳川自身が身につけると、あかりと初音が二人して弁当を柳川に渡す。
柳川(まこと)のHPが4に回復する。
柳川(まこと)「ありがとう、二人とも」
あかり「………」
初音「……死んで欲しくないもん」
柳川(まこと)「どっちかが倒れるんだ。……オレか、あいつか」
二人の柳川がお互いを見合う。
奇しくも、この時二人のHPは同じ値になっていたのだ。
葵「………っ!」
一歩前に出た葵。
智子が止める間もあらばこそ、葵がバトルを挑もうとした。
が、その瞬間にまことが急ブレーキをかける。
まこと「待ってくれ!!」
だが、雅史が一歩前に出て葵の挑戦を受ける態勢を整える。
通常なら、これは認められない「待った」になる筈だった。
雅史「………」
でくの「……下がって」
雅史を下げるでくの。
まことがその厚意に対して感謝の言葉を述べる。
まこと「……失礼した」
でくの「いいよ」
まこと「……ドローに……」
でくの「………?」
……ドローに賭けよう。
瑞穂が居なくなった今、ドローされるカードを操作することは出来ない。
だが、……瑞穂の残した「勝算」に賭けるとしたら……。
まこと「ターンエンド」
彼はこう選んだ。
そして、その行為がどうあれ、葵は自分の命を次のターンまでと密かに決めていたのだ。
葵(……私は………負けないっ!!)
でくの「……では……」
一枚のバトルカード、料理。
これにより、料理勝負を一度に二回挑むことが出来るようになる。
そして、梓は料理の時に強くなる特性を持っているのだ。
梓「さぁ、行くよ」
智子「ふっ………」
ため息を付いた智子。
幾度と無く状況を分析し、葵の暴走を止めつつパーティの崩壊をかろうじて止めてきた彼女が、今ため息を一つ残して、葵の背中をぽん、と叩く。
智子「もう、暴走しいなや。
ウチ、もうあんたを止める事はでけへんのやから」
特殊能力「放棄」には、HPが2必要だ。だが、彼女のHPは1。
智子は、眼鏡のフレームに指を添えると、ため息を付いた。
智子(すまんなぁ……結局、ウチは役にたてなんだ。この眼鏡も……貰っただけやったかなぁ……)
一瞬の料理勝負の後、梓は倒れて運ばれていく智子の姿を見る。
と、彼女の足下に転がる物に目がいく。
彼女の着けていた眼鏡。
……彼女が戦場に出る前、まことが智子に手渡した物だ。
瑞穂が用意したこの眼鏡は、持ち主も用意した主人をも失い、今その役目を終えたのだ。
まこと「………すまないな……智子……」
保科智子が排除されると、再びでくのはバトルを挑む。
セリオが一歩前にでると、柳川(まこと)がそれに応じるように前に出る。
柳川(まこと)「私が受けよう」
さらに3のダメージを受け、残るHPは1。
まこと (……一将功成らずして、万骨枯る、か……。無様な物だ)
柳川(まこと)「さぁ、次をどうぞ」
と、その戦いの中にティリアの姿が見える。
次の相手はティリアか……。
葵が一歩前に出ながら考える。
恐らく、格闘技で来るだろう……そうなれば……。
葵「……無駄死にじゃ、ないですよね」
と、ティリアが選んだのは「デコピン」だった。
でくの「まだ死なないよ?」
葵「………あ……」
ティリアが3のダメージを受けて、さらに葵は根性を発動してダメージを完全に相殺する。
だが、もう後は無かった。
もし柳川(でくの)が狩猟者として、その爪の一振りを行えば簡単に柳川(まこと)はその命を落とすことになっただろう……。
でくのは、その事はとっくに理解していた。
ティリアが攻撃などせずに、特殊能力「聖なる光」を発動すれば、それだけで味方全員のHPを回復させることが出来た。
そして、その上で柳川(でくの)が狩猟者化して柳川(まこと)に襲いかかれば完全に勝利する事が出来た筈だった。
だが、でくのはそうしなかった。
ただ……。
でくの「ターンエンド」
まこと「………何?」
でくの「……ゴメンね、……情けをかけるようなまねをして」
まこと「………………」
でくの「あと1ターン……本当に、心に残る勝負をしましょう」
甘い考えかも知れない。
だが……彼女は敢えてそれを望んだのだ。
そして、それなら………。
まこと「後悔はないな……」
でくのと、そして自分を信じてついてきてくれた全員に声をかける。
でくの「……はい」
でくのの返事。
そして、彼は再び彼の元に居る全員に言葉を向ける。
まこと「後悔するでないぞ、我が部下達よ!」
でくの(……部下って……)
まこと「………相手に取って不足無し!!」
でくのにしてみれば、確かに今まで幾ら闘っても勝てなかった相手を前にして不足無しもあったものでは無かっただろう。
だが、この時、まことの陣営の全員は、最後の突撃を前に意思を統一していたのだ。
でくの「……本当に……馬鹿ですね……」
ため息を付いたでくの。
彼女は、相手にしているまことが「馬鹿皇帝」を名乗っていることを知っているのだ。
バトルカード「カラオケ」を一枚場に出すと、初音が前にでる。
もう、回復ではなく、総力攻撃に出るのだ。
初音「いくよ、相手は誰?」
雅史「僕が受けよう」
初音の勇ましい挑戦に応える雅史。
だが、雅史は特殊能力「消極的」を利用して早さ(防御力)をアップさせる。
これにより、初音が1点のダメージを一方的に受ける事になる。
だが、もう手は尽きている。
柳川(まこと)が一歩前に出て、玉砕を覚悟した時、もう一人の柳川が彼の前に立つ。
まこと「……刺し違える……か?」
でくの「………」
まこと「…………」
でくの「良い勝負……でした。……全力で……」
葵とあかりが柳川の為に力を与え、梓とHM−12がやはり柳川に力を与える。
狩猟者化した、二人の柳川はゆっくりと間合いを詰め………そして………。
………………………………………………
松原 葵……一人の少女が、その日記を閉じる。
激しい戦いの記録を記した彼女の日記帳には、今でもあのときの事が克明に記されている。
葵 「……結局、私はこうして生きてますが……」
前に倒れ、お互いの身体を支えに刺し違えた両者の姿が、彼女の脳裏に浮かぶ。
ティリアが特殊能力を発揮すれば、柳川(でくの)は倒れる事無く、でくのは勝利を手にしただろう。
あかりと初音が回復に努めれば、もしかすればあの後逆転劇を可能にする何かが起こった
かもしれなかった。
だが、でくのもまことも解っていた。
あの時あの瞬間が、二人の戦いの最高潮であることを。
そして、敢えてそれを「相打ち」という形にした理由があることを。
葵が再びため息を付くと、既に星が瞬く夜空を見上げる。
また、彼女はいつか戦いに駆り出されるだろう。
その時が来ても、彼女はこの拮抗した、熱い戦いのことを忘れることはないのだ……。